研究概要 |
グラム陰性病原細菌の多くはタイプIII分泌装置を介してエフェクターと呼ばれる機能性タンパク質を宿主細胞内に移行させる。宿主に移行したエフェクターは、様々な宿主側因子に作用することで感染成立に重要な役割を果たす。本研究の目的は、腸管病原性大腸菌(enteropathogenic E.coli, EPEC)が保持するタイプIII分泌装置の超微形態学的解析、および構成タンパク質の局在と機能を調べ、タイプIII分泌装置を介したエフェクターの宿主移行システムの全体像を明らかにすることである。 タイプIII分泌装置に関与すると考えられるEscC、EscD、EscJの欠損株をそれぞれ作製し、各欠損株におけるタイプIII分泌タンパク質の培地中への分泌をCBB染色及び抗Tir抗体等を用いたウエスタンブロット法で解析した。その結果、欠損株ではタイプIII分泌タンパク質の菌体外へ分泌は認められなかった。また、上記欠損株よりタイプIII分泌装置の精製を試み、透過型電子顕微鏡で解析したが、欠損株ではタイプIII分泌装置を確認することができなかった。このことから、EscC、EscD、EscJはタイプIII分泌装置を直接構成するタンパク質であることが示唆された。さらに抗EscC抗体を用いた免疫電顕により、EscCはタイプIII分泌装置の外膜リングを構成することが示唆された。申請者らは前年度の特定領域研究にて、EspA鞘状構造が付随したタイプIII分泌装置の高次構造を明らかにしたが、今年度の研究で分泌装置基部の外膜リングを構成するタンパク質を同定した。今後は内膜リングのタンパク質を同定するとともに、GSTプルダウン法によって個々の構成タンパク質の相互作用を明らかにする。
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