細胞壁の肥厚とバンコマイシン耐性の関係を明らかにするため、我々はMu50株とMI株(米国で分離されたVISA株)及びそれら由来のバンコマイシン感受性株のバンコマイシン消費量と細胞壁結合量を経時的に測定した。また、細胞壁の合成活性をバンコマイシン存在下/非存在下で評価した。それらの一連の実験結果に基いて数理解釈モデルを構築し、詳細に検討した結果、バンコマイシン耐性は細胞壁の肥厚で説明され、VISAにおけるバンコマイシン耐性機構は、主として:1)バンコマイシン分子が肥厚した細胞壁を通過する際、細胞壁に多数存在するD-alanyl-D-alanine残基(バンコマイシンが結合して消費される)によりトラップされること(affinity trapping)、2)肥厚した細胞壁にバンコマイシンが結合することにより、一種の"目詰まり"が起こり(clogging effect)、バンコマイシンが細胞膜付近の作用点に到達するまでの時間が遅れること、3)結果として、作用点(細胞質膜上に輸送されてきた細胞壁構成要素murein monomer)付近に到達できたバンコマイシンの絶対量が少なくなり、murein monomerの合成活性が高まっている菌に致死的効果を与えられないこと、の3点に要約されることを明らかにした。 バンコマイシン耐性に関与する遺伝子を特定する目的で、マイクロアレイ解析を行った。バンコマイシン耐性株と感受性株の遺伝子転写プロフィールを比較した結果その候補として120個の遺伝子が同定された。それらを単離してプラスミドに導入し、遺伝子を過剰発現させた形質転換株の薬剤耐性を解析した結果、黄色ブドウ球菌でglycopeptideに(あるいは同時にβ-lactam耐性にも)関与すると推察される17個の遺伝子を特定できた。この内の8個は新規遺伝子であった。
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