研究概要 |
主要組織適合抗原(MHC分子)は、蛋白由来のペプチド抗原を結合してT細胞に提示することにより、ペプチド抗原特異的な免疫反応を誘導する。これに対して、結核菌などの抗酸菌が有する脂質抗原を結合してT細胞に提示する新しいタイプの抗原分子としてCD1分子(CD1a、CD1b、CD1c)が同定され、感染制御における役割が注目されている。BCGはウシ型結核菌の弱毒株であり、抗結核ワクチンとして長年にわたり広く世界中で使用されてきたが、その免疫誘導の指標として、ツベルクリン反応など蛋白抗原に対する細胞性免疫のみが用いられ、脂質抗原に対するT細胞反応の詳細は不明であった。そこで、BCGに感染したCD1陽性樹状細胞を抗原提示細胞として用い、それによって,活性化されるCD1拘束性T細胞の存在と機能を解析する研究を展開した。BCG既接種者より得た末梢血T細胞をCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞に分画し、生菌あるいは死菌BCG感染樹状細胞に対するそれぞれの反応をインターフェロンガンマエリスポット法を用いて解析した。その結果、CD8陽性T細胞は生菌BCG感染樹状細胞に有意な反応を示し、その反応は抗CD1b抗体で顕著に阻止された。これとは対照的に、CD4陽性T細胞は、生菌よりもむしろ死菌に対して強い反応を示し、その反応は抗MHCクラス2抗体により阻止された。このことから、BCG既接種者において、生菌BCGを特異的に認識して、結核菌制御に重要なサイトカインであるインターフェロンガンマを産生するCD1b拘束性CD8陽性T細胞プールが存在することが明らかとなった。以上の結果は、BCG接種により脂質抗原をターゲットにした感染防御反応が誘導される可能性を示唆しており、蛋白に対する免疫反応を評価するツベルクリン反応に加え、脂質に対する免疫反応を臨床的に評価する方法の開発が必要であると考えられた。
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