研究概要 |
マラリア原虫における抗原多型発生の遺伝的機構として突然変異、及び、有性生殖組換えがあげられる。この2点につき、熱帯熱マラリア原虫集団の集団遺伝学的特性を活かすことによって解析した。すなわち、異なる遺伝子型の重複感染が限られている地域(バヌアツ)では突然変異による多型発生の頻度を、また、組換えの関与についてはマラリア伝播の異なる地域(タンザニア、タイなど)における対立遺伝子の塩基多様度、及び、連鎖不平衡解析から調べた。 1.熱帯熱マラリア原虫表面抗原における単塩基多型(SNP)発生の頻度 バヌアツ7島の原虫集団について、抗原遺伝子のmsp1, msp2, cspのSNPを調べた。その結果、(1)3つの表面抗原遺伝子では少なくとも過去35年間はバヌアツにおいて新規のSNPsが発生しておらず、抗原遺伝子のSNPsが安定である、(2)クロロキン耐性が現れる以前にバヌアツに存在していた表面抗原のSNPsのあるものは有性生殖期における染色体の混ぜ合わせによって現在まで存続している、ことが明らかとなった。 2.組換えによる対立遺伝子多様性の発生 タンザニアとタイの熱帯熱マラリア原虫集団について、msp1の塩基多様度と遺伝子内多型塩基サイト間の連鎖不平衡を解析した。その結果、2地域は塩基多様度が同程度であるにもかかわらず、連鎖不平衡はタンザニアにおいて1kb以内で急速に弱まるのに対して、タイでは遺伝子全長にわたり強かった。以上は、msp1対立遺伝子多様性の発生において減数分裂期の遺伝子内組換えがマラリア伝播強度に応じて深く関わり、伝播の高い地域では新規対立遺伝子の創出が頻繁になされ、膨大な数の対立遺伝子が存在することを示唆する。
|