研究概要 |
マラリア原虫の抗原多型は免疫回避機構の解明、また有効なワクチンの開発のために重要な研究課題である。熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)のワクチン候補抗原であるメロゾイト表面蛋白質1(msp1)遺伝子においては抗原多型が激しく、このことから抗原遺伝子の急速な進化が示唆されている。 msp1遺伝子におけるSNPsの安定性を検討するため、大陸間におけるSNPsの比較を行った。アフリカ、アジア、南西太平洋、及び、南米の8ヶ国から2000株以上のP.falciparumを採取し、その中から単独遺伝子型感染株424株を選定し、そのmsp1遺伝子をシーケンスした。MAD20型対立遺伝子群(整列化約4.7kb)ではSNPsが約100サイト認められたが、SNPsの多くは世界各地の原虫集団において同一サイト同一塩基置換であり、タンザニアとタイではSNPsの78%が共有されていた。一方、ハウスキーピング遺伝子であるsercaでは同一のSNPsが地理間で非常に限られていた。以上の結果は、msp1遺伝子におけるSNPsの起源が現生P.falciparum集団の分岐以前のもので、SNPsが相当期間、安定であることを意味する。一方、地域特有のSNPsも散見され、SNPsの一部は集団分岐後に発生した比較的新しいものである可能性を残している。 調べたどのP.falciparum集団においてもmsp1遺伝子座位では高い塩基多様度(π)を示し、そのレベルはハウスキーピング遺伝子(serca,ldh,asl,pgk)を超えていた。また、対立遺伝子(SNPsの組み合わせによるハプロタイプ)の数もハウスキーピング遺伝子座位より多かった。すべてのP.falciparum集団においてmsp1遺伝子が高い塩基多様度を保ったまま多型が維持されていることは、この免疫標的抗原遺伝子が平衡選択を長期間受けていることを示唆する。
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