増殖が遅く、取り扱いにくい結核菌H37Rvの病原性遺伝子の転写ネットワーク解析を目的とし、本年度は遺伝子発現シグナルで重要なプロモーターと転写因子をバイオインフォマティックスなどを利用して検索することを計画した。 1)プロモーターの検索:固定化ホロ酵素カラムを用いたプロモーター新選別法^<3)>により、SigA、SigE及びSigH型の転写能のあるDNA断片をスクリーンした。その結果、それぞれのプロモーターの共通配列を見い出だすことができた。これらの共通配列を基に病原性遺伝子のプロモーター検索を行ない、そのプロモーターを含むDNA断片の転写能を調べた。その結果を表1に示す。 2)転写因子の同定・分類:ドメインごとのホモロジー検索を基本とし、最終的にはファミリーごとのアラインメントを行なって転写因子としての特徴的な構造が保存されていることを確認する手段をとった。その結果、M.tuberculosis H37Rvの転写因子は164個と推定された。この転写因子の数は、全ゲノム配列が明らかになった43種の微生物の転写因子数とゲノムサイズの相関から、他の微生物より少ないことがわかった。Mycobacteriumであるライ菌でも同様な傾向が見い出された。(国立遺伝研・藤田信之博士の協力) 3)シグマ因子のDNA認識能の解明:結核菌に特有で、転写制御に関わるシグマ因子SigE及びSigHそれぞれのプロモーター共通配列は類似している。したがって、これらのDNA認識に関わるメカニズムの知見を得るため、X線構造解析を目指し、シグマ因子SigE及びSigHの多量発現プラスミドを構築した。
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