研究課題
本年度においては、もっぱら昨年度以前に調査研究されていた成果のとりまとめにあてられた。昨年度において、集中的に田中久重の製作した万年時計の分解調査・復元ならびに複製製作の作業が進められたが、そのうち分解調査の作業にあたって認識された万年時計の技術的特徴に関して作業にあたった時計技術のエキスパートの方々からの聞き書きを行った。万年時計の製作には、今日の製作方法からすればかなり異なる製作方法が使われているが、当時の製作技術からすれば理にかなってもおり、また先端的なものであったと思われる。それらの今日のとは異なる製作法において主要なものとして、ロー付けと方形の軸穴という点がある。ロー付けはハンダ付けのような仕組みによる金属の接合方法であり、空けられた穴をふさぐ場合、後述のように歯車の穴に軸を通し、軸を歯車に接合させる場合など、数多くの箇所で多用されている。方形の軸穴とは、歯車の中心の軸を通す穴がほぼ正方形のような形になっていることである。今日では、歯車の軸断面と穴の形状については、中心を正確に一致させること(「心取り」)ができるように、円形の軸と穴を利用することが通例である。実際、久重の万年時計においてもそのような円形の軸を利用している歯車が多く使われているが、特にトルクが大きくかかるような箇所においては、正方形の穴を歯車の中心に空けて角柱状の軸を通した歯車が利用されている。また、調査研究にあたっては、多くの映像が撮影されたが、それらの整理についてもしてるところである。時計の社会的意義に関しては、3月に研究会を開催し、それらのディスカッションや報告をもとにして、論文集の出版を企画しているところである。
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天文月報 98巻5号
ページ: 373-379