今年度は、昨年度の研究成果をもとに、考察年代を18世紀末〜19世紀前半に設定し、オランダ船の輸入品とそれを取り扱った長崎の地役人構成の解明に関する基礎的研究をおこなった。 まず、オランダ船輸入品に関しては、特に毛織物の輸入に焦点を絞り、日本における毛織物輸入のはじまりと近世における毛織物輸入の実態、および、日本における毛織物の受用について、単に貿易史の面だけでなく、文化史・杜会史の側面を含めて考察し、近世における毛織物の存在意義について言及し、「権威と粋と-江戸時代の毛織物輸入-」と題して発表した。 また、文政6年(1823)、すなわち政府の命令で日本に関する「総合的科学的調査」を実行したシーボルトが来日した頃の日蘭貿易の実態をオランダ船の輸入品に焦点を絞り、特に原産地に注目しながら各品目の数量変動をオランダを取り巻く当時の国際情勢と相関関係で検討し、当時の状況が日蘭貿易史上どのような位置を占めていたのかを考察し、「シーボルト来日前後の日蘭貿易」と題して発表した。 長崎の地役人構成に関しては、昨年につづいて、長崎県立長崎図書館・長崎市立博物館・東京大学史料編纂所等々に所蔵される「分限帳」「長崎諸役人帳」類を収集し、整理し、分析し、その中から天保期のものを事例として取り上げ、さらに「分限帳」の成立事情について解説を付して「天保期の分限帳-史料紹介 長崎県立長崎図書館所蔵「分限帳」-(下)」と題して発表した。
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