研究課題/領域番号 |
14023226
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研究機関 | くらしき作陽大学 |
研究代表者 |
北野 信彦 くらしき作陽大学, 食文化学部, 助教授 (90167370)
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研究分担者 |
高妻 洋成 独立行政法人文化財研究所, 奈良文化財研究所・埋蔵文化財センター, 主任研究官 (80234699)
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キーワード | 木取り方法 / 木胎製作 / 一括出土の漆工用具類 / 混和剤 / 球状抜け穴 / チョーキング現象 / 亀甲断紋 / 近世漆器 |
研究概要 |
本年度は、劣化の著しい漆器資料が『どのような品質と性状をもち、どのような劣化現象を起こしているのか?』を具体的に検証するために、(1)江戸時代の文献史料や伝世(民具)資料を用いた基本的な漆器生産技術の解明、(2)個々の出土漆器資料および一括出土の漆工用具などの分析、(3)以上の(1)および(2)の調査で解明された漆工技術を参考にした劣化実験用の漆塗膜手板(標準サンプル試料)の作成、の3項目の調査を行った。その結果、(1)の項目では、滋賀県永源寺町蛭谷木地師資料館所蔵・愛知県津具村教育委員会所蔵のろくろ挽き木地資料の実測調査を行い、木取り方法の違いと木胎製作の工程との関連性が良好に理解された。次に(2)の項目では、江戸時代後期頃に年代が比定される新宿区坂町遺跡(大型ごみ穴)から一括で出土した漆工用具類一式を分析調査した。その結果これらは、大型漆溜桶・小型漆溜曲物・漆溜陶磁器・漆蓋紙・漆漉布・漆漉紙・漆溜貝パレット・漆塗刷毛・漆塗箆の漆工工程が良好に理解される一括の漆工用具類一式であることがわかった。漆液樹脂は、赤色系、茶褐色系、光沢が良好な黒色系・緑色系の少なくとも4種類の異なる色調が確認された。これらの漆断面の細部を顕微鏡観察してみると、3〜4マイクロメーター程度の微細な球状抜け穴痕跡と、空気抜け穴状のやや顕著な空洞痕跡が確認された。このうち微細な球状抜け穴痕跡は、生漆が固化膜を形成する際に発生する漆膜内部のゴム質不飽和分散形態、やや大きい抜け穴は油分などの各種混和剤の抜け穴であると考えられる。劣化が著しい漆塗膜の表面観察の結果、この抜け穴部分から漆塗膜の劣化(亀裂破壊やチョーキング現象)を起こすことがわかった。(3)の項目では、混和剤を多く含む黒漆(廉価な量産品を想定)と、中世以前の伝世資料にみられる塗膜表面に亀甲断紋のシャープな亀裂が発生する黒漆(優品を想定)の各種劣化実験用の漆塗膜手板(標準サンプル試料)の作成を行った。
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