今年度は、尾張藩邸に関する研究文献の収集を進めると同時に、関係史料についての情報の集約ならびにマイクロ複写による収集を実施した。 尾張藩の江戸屋敷に関する史料には、「官邸便覧写」「御屋敷吟味」「御屋敷吟味年順頭書」「嘉永江戸屋敷留」「江戸御屋敷邸宅調査書」「東京御屋敷地一巻」などがあり、国許や大坂等に置かれた御殿や屋敷に関しては「尾州并岐阜御殿等当時存亡吟味之留」「江府・尾州・大坂御屋敷吟味一巻」などが残存している。今回の研究では、これらの史料を用いて尾張藩邸の全貌を把握する作業から始め、江戸時代を通じて存在した21か所の江戸屋敷、4か所(御馳走所を含む)の名古屋城下の屋敷、および大坂屋敷・京都屋敷について、その変遷に関して検討し整理を試みた。また、従来検討が不十分であった熱田・小牧・荒居など12か所の御殿についても、同様の作業を実施した。これらの御殿にあった施設の一部は、取り壊されたのちに江戸へと搬送され、市ケ谷邸などの施設として再利用されたことが絵図類などから明らかとなっており、藩邸のみならず国許の御殿なども含めた総合的な検討が、大名藩邸建築の具体的な様相を知るうえで不可欠な作業となるためである。 尾張藩邸の空間構造・建築技術を解明するために必要な絵図類については、「市買御屋敷惣差図」「市買御屋敷大絵図面」「市買御屋敷指図」「市ケ谷新旧大御指図」「市谷御殿絵図」「市谷御屋敷之図」「(麹町)藩邸之図」「戸山御屋敷絵図」「築地御屋敷絵図」などの全体図をはじめ、御殿図・庭園図・長屋図といった部分図も含め、フィルム複写を実施し、一部については図像のデジタル化作業を行った。 次年度では、上記の過程で収集した史料をもとに、大名藩邸建築に関する空間的把握と機能に関する分析を実施していくことにする。
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