天球儀は星の位置を球面の上に書き記し天球をかたどったもので、通常天の南北極を結ぶ軸の回りに回転する星図の一種である。球面上には恒星や星座・星宿の名前や位置のほかに、赤道や黄道、南北両極やその他の経緯線などが記入され、天文学的考察や教育等の目的に用いられた。わが国では、中国天文学の影響を受け、中国星座を記入した天球儀が江戸時代に製作された。現存するわが国最古の天球儀(1673)の製作者は、幕府の初代天文方となった渋川春海であるが、それ以来江戸時代中に多くの中国天文学系統の天球儀が多くの人によって製作されたと考えられ、現に有銘・無銘の天球儀が存在する。 本研究は平成14・15の両年度に行われ、現存が確認される40基あまりの天球儀を実地に調査し、製作年代、製作者、準拠星図、構造・素材、などを明らかにし、相互の比較検討および文献による調査とあいまって、江戸時代の日本製天球儀の特色を明らかにすることが目的である。各天球儀についての詳細な調査は、数基を除けばこれまでほとんどなされていなかった。 平成14年度は、自立科学博物館が所蔵する8基の天球儀を含め、22基の天球儀の実地調査をおこなった。これは現存する天球儀の半数強にあたる。これらの天球儀について上記の観点から研究を進めており、製作者・製作年代の不明なものも星図・分点等から年代が推定できる。特に国立科学博物館所蔵の天球儀については、初期の内藤家伝来銅製天球儀は「わが国最古の天球儀」の姉妹品であること、春海作かどうか議論のあった藤堂家伝来天球儀は模写品であることを確認した。また、幕末期で日本製かどうか不明であった1基が日本製であることを確認するなど、新しい成果も得られた。
|