本年度の研究成果は、江戸時代の鏝絵職人の伊豆の長八(入江長八)の鏝絵作品製作技法に関する調査を行ったことである。調査は、光学顕微鏡による粒度分布などの特性調査、ポータブル型蛍光X線装置(EDAX社製 XT-35)による顔料分析を中心に行った。 調査の結果から、例えば漆喰で作成した屏風「舞」の背景部分は、下部には砂などの粗粒成分が多く、上部に行くに従って、粘土など細粒成分が多くなっていることがわかった。この手法により、背景のグラデーションが効果的に表されていると考えられる。 また、ポータブル型蛍光X線装置により、例えば「相生の松」の作品ではすべての測定箇所から鉛(Pb)が検出された。どんな化合物であるかは不明であるが、白色材料として彩色下地層に用いられている可能性が高いこと、太陽を描いた赤色部分からは大量の水銀(Hg)が検出され、水銀朱などの顔料が使われていると考えられこと、女性の衣の赤色からはHgはまったく検出されず、Pbが比較的多く検出されており、Pb系赤色材料を用いている可能性があることなどがわかった。また女性の衣の青色から検出された元素はPbおよび少量のカルシウム(Ca)、鉄(Fe)、銅(Cu)だけである。人工群青(ウルトラマリン)あるいは有機染料による着色が考えられることがわかった。 また、本年度は、最終年度であるので研究成果報告書を作成した。
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