本研究ではこれまであまり注目されてこなかった大名駕籠の製作技法について研究を行った。研究は、大名駕籠も含めた駕籠の文献調査と実存している大名駕籠の調査を肉眼観察による調査と保存科学的手法を用いた調査を行った。 文献調査からは我が国における駕籠の発生時流に、権力者の権威の象徴として利用された車、輿の系統の駕籠と罪人や老人、病人を運ぶためだけの利用された・輿といわれる系統の駕籠の2種類があることがおぼろげながら見えてきた。すなわち、この2つの起源を持つ駕籠だからこそ、権力者から庶民階層までの広範囲にわたる使用者層を形成できたと考えられるのである。 実在する駕籠の調査は「乗物」といわれる権力者階級の使用した駕籠を対象とした。また、乗物は男乗物と女乗物に大別されるが、今回の調査では保存修復の対象となるケースの多い、女乗物の調査を行った。調査対象とした乗物は30挺であり、調査地も東北地方から九州まで、ほぼ全国的に展開できた。女乗物は、外装を漆塗りに蒔絵を施し、内装にも装飾画を用いるなど駕籠の中でもその装飾性は突出している。今回の調査では、外装の漆芸技法を肉眼で観察し、蒔絵の種類と劣化形態について分類を行った。また、漆塗り部分と蒔絵箇所は携帯型の蛍光X線分析装置で定性分析を行った。 現在、文献調査から見られる乗物製作規定と実存している女乗物の調査を比較検討し、女乗物を中心とした製作技法の解明に努めている。
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