研究の最終年度となる今年度は、昨年度の調査結果の整理と分析する作業を中心に行い、学術論文や学会発表という形で成果を公表してきた。 研究成果としては、なによりもこれまで注目されることの少なかった日本の乗用具文化について一つの知見を加えることができ、今後の研究の礎石となるだけの研究成果をあげられたことが大きいものといえる。また、研究手法として、今回の研究では伝世品資料について、保存科学的な手法と文献史学の手法を取り入れたユニークな研究体制を築くことができたといえる。これは、今後注目されると考えられる自然科学と人文科学の統合領域的な研究体制の一事例となるものであろう。 具体的な研究成果については、個別の論文や研究発表に詳しく記載しているが、主な成果として、女乗物の外装に用いられる漆芸技法及び蒔絵技法について、江戸期に大衆化していった漆器製作と共通する技法が用いられていたことがあげられる。これは、今後、出土遺物で調査されている近世漆器の研究成果と比較検証していくことが必要である。 また、内装に用いられる装飾画については、輿に描かれていた障子画の規定との関連性が見受けられた。これは、輿という最高位に位置する乗用具の地位を女乗物が受け継いでいく歴史的な変遷を理論的に示していける契機となることができるが、今後、さらに文献資料による分析を進めていきたいと考えている。
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