研究概要 |
【目的】我々は膵癌においてDifferential display法を用い、癌部で発現が抑制される癌関連遺伝子としてG-protein γ7(Gγ7)を同定した(BBRC.246,1998)。Gγ7は三量体G蛋白で、細胞外シグナルの細胞内への伝達に関与する。これまで食道癌、胃癌、大腸癌においてもその発現の減弱を確認したが(Cancer Res.59,1999)、当研究では原発性肝癌におけるGγ7発現を解析し臨床病理学的意義を検討するとともにGγ7遺伝子導入細胞を用いたDNAマイクロアレイ解析を行った。【対象と方法】(1)肝癌細胞株(HuH7,HepG2)と原発性肝癌切除51例(肝細胞癌35例、胆管細胞癌16例)の癌部(T)及び非癌部(N)におけるGγ7の発現を解析した。臨床病理学的因子(術前肝機能を含む背景因子と腫瘍因子)との相関をT/N比の中央値にて2群に分け比較検討した。(2)G protein γ7遺伝子発現が減弱している癌細胞株(KY150)にmock遺伝子とG protein γ7遺伝子を導入し、マイクロアレイ法を用いて遺伝子発現の比較を行った。【結果】(1)1.Gγ7遺伝子発現:HuH7、HepG2ともに明らかなGγ7の発現を認めた。肝細胞癌におけるT/N比は1.1±1.2(中央値:0.81)であり、他の消化器癌と異なり癌部での発現減弱は認めなかった。一方、胆管細胞癌におけるT/N比は0.55±0.35(中央値:0.44)で、T/N比1.0以上は16例中1例のみであり、癌部での明らかな発現減弱を認めた。2.臨床病理学的検討:肝細胞癌では、いずれの臨床病理学的因子においてもGγ7の発現との間に有意な相関は見られなかった。一方、胆管細胞癌では、高度減弱群は、軽度減弱群と比べ、ICGR15が有意に低値であった(8.7±2.4vs.16.6±3.1%,P<0.01)。また、高度減弱群の全8例が中・低分化型または低分化型と低分化型を含むのに対し、軽度減弱群では低分化型を含むのは3例のみであった(8/8vs.3/8,P<0.01)。しかし、im, ly, v, pn因子など他の病理学的因子やリンパ節転移では両群間に有意差を認めなかった。(2)DNAマイクロアレイ解析ではp27,TTK protein kinase, INK4cといった細胞周期関連遺伝子の増強を認めた。【総括】1.肝細胞癌では癌部での発現減弱は認めなかったが、胆管細胞癌では他の消化器癌と同様、癌部での明らかな発現減弱を認めた。株化細胞に関しても、膵癌や消化管癌ではGγ7はほとんど発現しないが、肝癌細胞株では明らかな発現を認めた。2.胆管細胞癌では、癌部での高度発現減弱例において、術前肝機能が良好であり、低分化型の症例が多かった。(2)DNAマイクロアレイ解析によりGγ7の発現によりp27,TTK protein kinase, INK4cといった細胞周期関連遺伝子の増強を認めた。
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