<目的>がん抑制遺伝子p53に代わる第二の遺伝子として、我々を含む複数のグループがp63遺伝子を同定した。p63遺伝子がスプライシングの違いにより産生する2種類のタンパク質(p73Lとp51)のうち、我々が同定したp73Lはp53に対してドミナントネガティヴに作用することを報告してきた。p53はまた、がん局所における血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を転写レベルで制御していることが知られている。本研究では、p73L産物によるVEGF産生制御のメカニズムを分子レベルで明らかにし、さらにp63遺伝子産物が血管新生の正・負の制御因子として、遺伝子治療の材料になり得るかの基礎検討の一助とすることを目指した。 <研究成果>1)p63遺伝産物p73Lとp51がVEGF発現に及ぼす影響を、遺伝子導入した胚繊維芽細胞によるルシフェラーゼアッセイで比較検討した。その結果、p73LはVEGFプロモーターを活性化したが、p51は抑制することによって、VEGF産生量を制御していることが示された。 2)p73Lおよびp51によるVEGFのプロモーターの制御領域を検討するために、種々のプロモーター領域のミュータントを作製した。ルシフェラーゼアッセイの結果、-976から-772の部位に依存し、さらに同領域に存在する低酸素誘導因子(HIF-1)の結合配列(HRE)が大切であることが判明した。 3)p51はHIF-1aと会合して分解を誘導し、p73Lはその分解を抑制する事が示された。以上、p63遺伝子に関する今回の研究成果によって、この遺伝子産物は、VEGF転写制御に加えて低酸素誘導因子(HIF-1)を介した下流の遺伝子の発現を間接的に制御している可能性が初めて示され、今後のがん局所における血管新生の正・負の制御因子として注目されるところとなった。
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