細胞分裂期(M期)における染色体凝縮は、親細胞から娘細胞への遺伝情報の正確な伝達に重要であり、この機構の欠陥は遺伝情報の不正確な分配、ひいては突然変異や発がんに直結する。本研究では、染色体凝縮の分子基盤を理解するために、ツメガエル卵抽出液を用いた染色体高次構造のin vitro再構成系を用いて、染色体凝縮に重要な因子の同定を試みた。さらに、ヒストンH3のリン酸化と染色体凝縮の関係を解析した。 現在までに知られている染色体凝縮に必須なタンパク質は、DNAトポイソメラーゼIIとSMCタンパク質複合体であるコンデンシンのみである。我々は新規の染色体凝縮タンパク質を精製するために、ツメガエル卵抽出液をQセファロースで分画した。染色体凝縮に重要なタンパク質は4つの画分に分離された。最も高塩濃度で溶出された画分を更に精製すると、ヌクレオプラスミン、TAF1βの酸性シャペロンが精製された。現在、残りの3つの画分に存在する染色体凝縮因子の同定と、これらの酸性タンパク質がこの系でどのようなメカニズムで染色体凝縮に働くか解析中である。 ヒストンH3の染色体凝縮における役割を調べるために、M期卵抽出液からヒストンH3のリン酸化酵素の候補であるaurora B kinaseを免疫除去して、これにツメガエル精子核を加え、ヒストンH3のリン酸化状態と精子核の形態変化を観察した。aurora B kinaseを免疫除去すると精子核DNA上のヒストンH3のリン酸化が消失した。また、コンデンシンの精子核DNAへの結合は約50%減少した。しかし、ヒストンH3のリン酸化が観察されないこの条件下でも染色体の凝縮は観察された。この結果は、ヒストンH3のリン酸化は染色体凝縮には関係ない可能性を支持するが、コンデンシンの結合が減少した点に注目し解析を進めたい。
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