低酸素誘導性転写因子(HIF-1)は低酸素分圧下における多くの遺伝子の発現を制御し、細胞、組織、個体レベルの適応に重要な役割を果たしている。近年、固形がんにおいてHIF-1システムの異常が見い出され、HIF-1はがん治療の新たな標的分子の一つとして位置付けられる。申請者らは、最近、HIF-1機能を抑制性に調節する新規分子IPAS (=inhibitory PAS protein)を発見した。 i)IPASの発現調節機構 ・IPAS遺伝子のクローニングとそのプロモーター解析、ならびにmRNA産生機構を解析した。IPAS mRNAはHIF-3α mRNAと共通の遺伝子から産生されることがわかった。さらに、IPAS mRNA発現は、低酸素分圧で誘導され、その際、選択的スプライシングのレベルで興味ある制御を受けていることが示唆された。かかる低酸素分圧下におけるスプライシング制御は世界でも初めての発見であり、その分子機構解明に向けて取り組んでいる。 ・IPAS特異的抗体をGST融合IPASを用いて作成中である。今後、IPAS蛋白の分布、発現量を解析する。 ii)IPASによるHIF-1機能抑制の分子機構 ・HIF-1にIPASが蛋白蛋白相互作用し、HIF-1のDNA結合活性ならびに転写活性を抑制することがわかった。 ・現在、HIF-1の転写コファクターリクルートに与えるIPASの作用についても興味ある結果が得られつつある。 iii)がんの増殖・進展におけるIPASの意義の解明(牧野とPoellingerが共同で実施) ・がん細胞の増殖・血管新生に対してアンチセンスIPASが抑制性に作用することがわかった。RNAiを用いてHIF-1αのノックダウンも試みており、IPASアンチセンスの結果と対比して検討予定である。
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