一酸化窒素(NO)が低酸素と同様にhypoxia inducible factor 1 (HIF-1)を介し、血管内皮増殖因子(VEGF)遺伝子の転写を活性化することと、VEGF遺伝子の転写にはcis-elementsとしてHIF-1結合部位(HBS)とその下流のHIF-1 ancillary sequence (HAS)が必須であることを以前の実験で明らかにしていた。本研究では、アフィニティークロマトグラフィー法を用いて、ヒト腫瘍細胞HelaS3からHASに特異的に結合するHAS結合因子の抽出を試みた。HAS結合因子はタンパク量が少なく、高い塩濃度ではHASとの結合力が弱いために、この方法による単離は困難であった。現在は、酵母によるone-hybrid systemも平行して行い、クローニングを試みている。また、VEGF以外の低酸素誘導遺伝子の転写にもNOが関与するか否か調べたところ、検討した3種類の遺伝子のプロモータをNOは活性化し、いずれもcis-elementsとしてHBSとHASが重要であることが分かった。我々の結果と異なり、NOがVEGF遺伝子の発現を抑制するとの報告があるため、代表的なNO供与剤6種類を用いて、HIF-1やVEGF遺伝子に対する影響を4種類の腫瘍細胞株で検討した。一部を除いてNO供与剤は濃度依存性にHIF-1を誘導し、VEGF遺伝子の転写を活性化することが分かった。しかし、低酸素状態では高濃度のNO供与剤は逆にこれらの活性を阻害した。現時点ではVEGF遺伝子のHAS結合因子のクローニングはされていないが、NOがVEGF遺伝子をはじめ多くの低酸素誘導遺伝子の発現に関与し、低酸素によるそれらの発現を修飾している可能性が示唆された。NO供与剤を用いる際は、その種類と濃度、周囲の酸素濃度によりNOの影響が異なることから、実験条件を考慮したうえで結論を出す必要がある。
|