研究概要 |
チロシンキナーゼ(PTK)は癌細胞の増殖制御に深く関与する機能分子である。代表者らはその制御機構を解明する目的で、独自に単離したDok-1(p62^<dok>)とそのファミリー分子の造血器腫瘍における機能と作用機序の解析を進めている。昨年度の本研究の結果から、我々はDok-1とDok-2がサイトカインによる増殖及び生存シグナルを負に調節することで、白血病の抑制に機能していることを提唱してきた。そこで、本年度は、Dok-1/2による癌抑制機能の場を特定する為、骨髄細胞の移植実験を行った。その結果、Dok-1/2二重欠損マウスの骨髄細胞を移植した場合にのみ白血病の発症が確認され、また、その二重欠損マウスの骨髄細胞は増殖因子無添加条件下でのin vitroコロニー形成能を持つ事も確認された。この結果は、Dok-1/2の癌抑制機能が血球内での機能にあることを示すものである(J. EXP. Med.,2004)。他方、Dokファミリー分子による癌抑制の分子機構に関しては、エフェクター分子の結合領域と予想されるチロシン残基の重要性をDok-1について網羅的に検討した。その結果、従前から重要とされていたrasGAPとの会合部位(Tyr-295、Tyr-361)に加えてTyr-336とTyr-340の重要性が明らかになった。興味深いことに、両チロシン残基をファニルアラニンに置換したDok-1変異体はrasGAPとの会合能を維持しつつも、Rasの抑制能を喪失していた。これは、Dok-1にrasGAP以外のエフェクター分子を示唆する重要な知見と言える(Genes Cells,2004)。 この他にも、発癌やその防御との関わりが深い免疫シグナルに対するDok-1/2の抑制機能の発見や、線虫のRas-Erkシグナル系を正に制御する新規アダプター分子の同定など、癌細胞の増殖応答に係るシグナル系の解析が進められた。
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