血管内皮細胞上のTIE2は壁細胞から分泌されるTIE2のリガンド、アンジオポエチン-1(Ang1)により恒常的に活性化され、内皮細胞と壁細胞の接着が誘導され血管内皮細胞の運動能は抑制され、血管新生は負に制御されている。しかし、低酸素などで主に血管内皮細胞から分泌されるAng2はAng1に拮抗して、壁細胞を内皮細胞から解離させることで血管新生を開始させるという仮説が立てられている。我々はこれら仮説を立証する目的で、TIE2の恒常的な活性化が血管新生を抑制するかを解析してきた。まずTIE2の細胞膜の直下に点突然変異を挿入することにより、TIE2受容体が恒常的に活性化する変異cDNAを作成した。そこでこの遺伝子を血管内皮細胞に発現するコンディショナルトランスジェニックマウスを作成したところ、本マウスは胎生11日目までに致死となり、全身の血管新生が抑制されることが判明した。胎生9.5日目の組織学的解析では、心臓において心内膜と心筋細胞の強固な接着による心内膜の進展不良が観察され恒常的なTIE2の活性化による血管新生の抑制が確かに生じることが確認された。しかし、その他の領域では正常マウスと同様壁細胞はまだ充分発達しておらず、壁細胞が存在しなくてもTIE2の活性化単独で血管新生の抑制が誘導されることも判明した。この原因を試験管内で観察したところ、TIE2の強い活性化は細胞周期の遅延化を誘導しており、これが血管新生の抑制の主因であると考えられたが、TIE2が強く活性化した血管内皮細胞では細胞接着面においてFAKの過剰集積がランダムに現れ、過度の足場形成が細胞移動を抑制している可能性も考えられた。以上のことから血管新生が生じる際にはまずTIE2の不活性化が必要であることが確かめられた。この現象を利用して、壁細胞機能制御により血管新生を制御する新しい血管治療概念が発生すると考えられる。
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