がん細胞の浸潤・転移においては、上皮細胞の細胞間接着の形成・分解が重要な役割を果たしている。細胞間接着の形成・分解は、細胞間接着分子の小胞輸送を介した細胞膜への輸送や細胞膜からの取り込みとリサイクリングによりダイナミックに制御されていると考えられる。本研究では、細胞間接着の形成・分解の制御機構を明らかにする目的で、京都大学の月田先生のグループが発見したタイトジャンクション(TJ)を構成する細胞間接着分子クローディンに注目し、その小胞輸送について研究を進め、以下の成果を得た。1.極性を有する上皮細胞の基底側膜蛋白質であるLDL受容体(LDLR)と頂端側膜蛋白質である神経栄養因子受容体(p75NTR)の小胞体からゴルジ体を経て細胞膜に至る小胞輸送の過程について非極性細胞を用いて生化学的に解析できるアッセイ系がすでに他のグループにより確立されており、LDLRとp75NTRがそれぞれ異なる輸送小胞によって運ばれることが証明されている。本研究では、この系を応用し、クローディンが新しく合成され、ゴルジ体で輸送小胞に積み込まれて細胞膜に運ばれる過程を定量的に解析できるアッセイ系の開発に成功した。2.このアッセイ系を用い、小胞輸送の制御分子群Rabファミリーのメンバーで、TJに局在することが報告されているRab13とRab3Bは、各々クローディンとLDLRの細胞膜への輸送を制御し、ともにp75NTRの細胞膜への輸送には関与しないことを明らかにした。Rabの小胞輸送に対する特異性から考えると、これらの結果から、クローディンは基底側膜蛋白質LDLRと頂端側膜蛋白質p75NTRとは異なった輸送小胞にのって運ばれていることが予想され、今後クローディンの輸送に関わるRab13の作用機構の解明が重要であると考えられた。このように、本研究は予想以上に進展し、当初の目的はほぼ達成できた。
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