研究概要 |
低分子量G蛋白質Rhoファミリー(Rho, Rac, Cdc42)はアクチン細胞骨格系を制御し、生理的環境下では極性を有する上皮細胞層の形成に重要である。一方、非生理的環境下では、培養細胞へのRho変異遺伝子のtransfection、Rac1 GEFであるTiam1、ROCKの阻害薬Y-27632などの研究成果から、がん細胞の浸潤転移能への関与が示唆されている。転移能と相関してRhoC、Rho GDI2遺伝子発現の変動が報告されているが、その意義や分子機構はまだ明らかではない。私どもはRhoファミリーとその活性調節蛋白質であるRho GDI (GDP dissociation in-hibitor)およびSmg GDS (GDP dissociation stimulator)欠損マウスを用いて、p53欠損マウスとの交配およびTPA/DMBA投与による個体発がん研究を展開中である。また、Rho GDI α/β二重欠損マウスの表現型を解析した結果、顕著な体外受精率の低下と精子形成異常、成熟T細胞およびB細胞の減少、未分化顆粒球系細胞の増加が観察された。二重欠損マウスの胸腺、脾臓ではRhoA, Rac1蛋白質量が減少し、逆にGTP結合型Rhoの割合とErk活性は増加傾向を示した。従って、Rhoファミリーは精子形成と血球系細胞の分化過程で重要な役割を果たしており、GDI活性が限界まで低下した二重欠損マウスでは、残存するRhoファミリー分子の活性を亢進させることで適応いることが明らかになった。一方、Smg GDS欠損マウスで観察された心筋、胸腺細胞のアポトーシス亢進はp53欠損による影響を受けないことが明らかになり、p53非依存性アポトーシスである可能性が示唆された。
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