大腸癌などの消化器系癌や卵巣癌では、患者さんの血液中や腹水にリゾホスファチジン酸(Lyso PA)が多く含まれることが示唆されている。申請者は、低分子量G蛋白Rasに点変異が入り、Racが活性化したことにより、浸潤能が亢進した癌細胞(HT1080)が、正常な細胞に比べて、著しくLyso PAを産生していることを見い出した。そこで、癌患者さんの血液中や腹水中に、Lyso PAが本当に多いのか、癌細胞の浸潤性と相関するのか等を明らかすることを目的としてLyso PA量の測定のためのモノクローナル抗体の作製を行った。作製した抗体はホスファチジン酸(PA)と交叉性を示すものの、PAが血清中には存在しないことから定量することが可能であると考えられた。 また浸潤能が亢進したHT1080細胞に、Lyso PA量を減じる酵素であるLyso PAホスファターゼを恒常的に発現した細胞を作製し、この細胞のコロニー形成能や浸潤性を検討した所、いづれもこれらの活性が著しく低下していることが明らかになった。Lyso PAホスファターゼに点変異を導入し、酵素活性をなくしたものを発現した細胞ではこの様な阻害活性は見られなかった。このことは、Lyso PA量とがん細胞の癌化能に強い相関があり、がん治療の分子標的となり得ることを示している。
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