成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)感染者にはHTLV-I特異的CTLが存在するが、その生体内における抗腫瘍効果については不明な点が多い。本研究はATLに対する免疫治療の可能性を検討することを目的とし、各種HTLV-I抗原特異的CTLの生体内における抗腫瘍活性をラットのHTLV-I腫瘍モデルを用いて解析した。HTLV-I感染T細胞株(FPM1-V1AX)はTaxの発現は高いが、その他の抗原発現が抑制されている。この細胞の接種を受けた同系ラットはTaxとともにEnv特異的CTL活性を有していた。次に、Taxを免疫原にして、HTLV-I腫瘍に対するDNA、およびペプチドワクチンの有効性を評価した。本モデル系においては、Tax発現DNA投与によりTax特異的細胞傷害性T細胞(CTL)活性が誘導できる。このCTL細胞よりTax特異的CTL細胞株を樹立し、エピトープマッピングを行ったところ、主要エピトープの1つがTax180-188であり、このペプチドの免疫によりTax特異的CTL活性が誘導可能であることも示された。このエピトープは、以前にHTLV-I感染細胞で誘導したCTLが認識するものと同一であった。さらにTax発現DNA、あるいはTax180-188ペプチドで誘導した免疫T細胞をHTLV-I腫瘍モデルラットに移入したところ、T細胞を移入しない場合に認められる腫瘍形成と転移が抑制された。以上の結果から、HTLV-I腫瘍に対するDNAおよびペプチドワクチンの有効性が示唆された。また、低Env発現の状況でもEnv特異的CTLが誘導されていたことから、本モデル系が抗原発現の抑制が特徴であるHTLV-I感染細胞に対する免疫療法の開発にも応用可能であると考えられた。
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