研究概要 |
本研究では、前がん病変あるいは早期の肝細胞がんにおける、病理学的変化と、発現遺伝子プロファイルとの関連を明らかにし、前がん病変と肝細胞がんを鑑別する方法を確立することを目的とする。肝炎ウイルス関連の肝細胞がんおよび背景の肝硬変組織を用いて、SAGE法によるトランスクリプトーム解析を行った。これまでの正常肝臓、C型肝炎ウイルス(HCV)関連肝細胞がんに加えて、今年度はB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝細胞がんの解析を行った。これらSAGEライブラリーはひとりの症例から得られたものであった。そこで正常肝臓、HBV, HCV関連肝細胞癌および背景肝病変についてそれぞれ複数の症例を混合し新たに5つのSAGEライブラリーを作製しトランスクリプトームプロファイルを得た。これによって作製された肝臓由来のライブラリー数は10個(全部で約50万発現遺伝子tag)となり、世界最大の系統的な肝臓発現遺伝子情報を有した。本年度の研究によって正常肝臓、慢性肝炎(HBV、HCV)、肝細胞がん(HBV、HCV)を代表する発現遺伝子プロファイルが得られた。国際的には肝がん由来培養細胞株のEST、正常肝臓のEST、正常肝臓の2つのSAGEライブラリーおよび、断片的な肝細胞がんのESTとSAGE情報がある。しかしこれらの発現遺伝子情報は、はるかに規模が小さく、臨床情報も十分でない。今回のデータベースは50万発現tagを超え、10の異なるSAGEライブラリーであり、臨床情報も揃った世界最大の肝臓発現遺伝子情報である。がん化にいたる過程におけるトランスクリプトーム情報を得ると同時に、変動する多数の遺伝子を明らかにした。またマウスを用いた実験からFasの系をブロックすることによって発がんが抑制できることを示した。
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