白血病に対する新しい分子標的療法を開発するため、受容体型チロシンキナーゼFLT3、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)およびDNAメチル基転移酵素を主な標的分子とし、これらの機能を阻害する小化合物の探索およびヒト型抗体の作製、白血病細胞におけるin vitroでの阻害作用、ならびにin vivoでの評価法の確立のための動物モデルの作製を行った。現在までに、数種類のFLT3キナーゼ阻害作用を有する小化合物が報告されているが、その基本骨格としてindrocalbazol基の存在が重要であることを明らかにした。また、indrocalbazol骨格を持たない新規のFLT3キナーゼ阻害剤も数種類発見し、その生物学的特性を検討中である。また、FLT3遺伝子変異を伴う急性骨髄性白血病における分化誘導療法開発への基礎的検討として、変異FLT3導入32D細胞におけるG-CSF依存性好中球分化の抑制機序を分化関連遺伝子の発現量を定量化することにより検討し、変異FLT3により、G-CSFによって発現誘導されるC/EBP-εの発現が抑制されていることを明らかにした。更に、変異FLT3下流に位置するシグナル伝達分子の白血病治療における分子標的としての可能性を探るために変異FLT3による抗アポトーシス機構について検討し、STAT5からBCL-XLへのシグナル伝達が重要であることを明らかにした。脱DNAメチル化剤による白血病細胞株の増殖抑制効果は多彩であり、一部の白血病細胞への治療応用の可能性が示唆されたが、その増殖抑制効果と相関しているメチル化遺伝子の同定には至っておらず、網羅的な解析を遂行中である。一方、これらの阻害剤のin vivoでの評価のための動物モデルとして新たな免疫不全マウスであるNOGマウスでのヒト造血幹細胞の再構築を試み、70%以上の高いヒト血液細胞の生着と全血球系への分化、再構築を確認し、ヒト血液細胞の異種移植モデルとして優れた宿主であることを見いだした。
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