腫瘍と正常細胞における分子病態の違いに基づく腫瘍選択性のある治療法の開発が期待されている。なかでも白血病は腫瘍分子に対する特異的な治療が期待でき、またその効果を経時的にモニターできる利点を有している。我々は、キナーゼのように白血病においてドミナントな変異を有する場合はその阻害剤を、白血病特異的キメラ転写因子のようにドミナントネガティブに作用する標的には、それにリクルートされる転写抑制複合体を標的とした治療戦略を考えている。本研究では以下のことを明らかにした。 1、ヒト急性骨髄性白血病(AML)において高頻度に活性型変異が認められる受容体型チロシンキナーゼFLT3を標的とした小分子阻害剤の開発を行い、正常FLT3キナーゼよりも変異FLT3に特異性が高く、FLT3変異白血病を移植したマウスに有効な新規化合物を複数見出した。 2、AMLでのFLT3転写物発現量の意義を解析し、FLT3分子は恒常的活性化を起こすとともに、FLT3変異を有さないAMLにおける予後不良マーカーとなることを見出した。また、これらの白血病細胞は、FLT3キナーゼ阻害剤に高感受性を示した。 3、急性前骨髄球性白血病(APL)に発現するキメラ転写因子PML-RARAにリクルートされる転写複合体はN-CoR/TBLR1/HDAC3であり、この複合体が転写抑制に重要である可能性を示した。 4、白血病における新しいキナーゼ変異のスクリーニング系の開発と探索を行い、ヒトAMLからプールしたcDNAライブラリーから新たなキナーゼ変異をクローニングした。
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