研究概要 |
DNA損傷時の細胞応答制御において、様々な癌遺伝子産物、癌抑制遺伝子産物が極めて重要な役割を担っており、これらの発現・機能の異常の多くは細胞の癌化と密接に関連すると考えられる。核内セリン・スレオニンキナーゼChk2は、DNA損傷に伴って活性化し、細胞周期チェックポイント制御、DNA損傷修復または細胞死の決定において重要な役割を担うと考えられている。本年度の研究により、我々はDNA損傷に伴いp53依存的に発現誘導される核内タンパク質ホスファターゼWip1がChk2と機能的に共役することを明らかにした。主な研究成果としては、Wip1とChk2がin vitro, in vivoで物理的に会合すること、両者の会合動態が放射線照射により変動すること、Wip1がChk2の活性化に必要な68番目のスレオニンのリン酸化を脱リン酸化し得ること、内因性のWip1の発現を抑制することにより放射線照射に伴うChk2のリン酸化が長期間持続すること等を明らかにしており、Wip1が脱リン酸化を介してChk2の機能を制御することが強く示唆された。また、病理学的組織像からHodgkin病(HD)とNon-Hodgkinリンパ腫(NHL)に大別される悪性リンパ腫由来の細胞株において、Chk2を中心とするDNA損傷応答に関わる一群の遺伝子の発現解析を行い、HD由来細胞株においてChk2がDNAメチル化・ヒストン脱アセチル化による発現抑制を受けていることを明らかにした。
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