どのようにして免疫系にがん抗原を非自己として識別させ有効な抗がん免疫応答を惹起させるか、また、どのようにして悪性腫瘍の増殖シグナルを細胞死シグナルへとスイッチさせるかを命題に、本研究では、Tリンパ球の分化と選択を支配するシグナル伝達機構の解明を目的とした。この目的でまず、HY-TCRトランスジェニックマウスおよびAND-TCRトランスジェニックマウスにて、正の選択・負の選択・無の選択のそれぞれがみられる遺伝的背景のマウスを作製し、CD4+CD8+胸腺細胞を単離してRNAを調製し、マイクロアレイ法によって遺伝子発現解析を行った。得られた結果より、特に正の選択がひきおこされるCD4+CD8+胸腺細胞のみで高い発現がみられるいくつかの遺伝子を抽出した。それらの遺伝子を対象に改めてRT-PCR法により発現解析を行ったところ、少なくとも3つの新規遺伝子がTリンパ球系列に特異的に発現される遺伝子であるとともに、正の選択プロセスに特異的に発現される遺伝子であることがわかった。現在、遺伝子の強制発現系、ノックアウトマウスの作製、予測される遺伝子産物に対する抗体の作製を進めることによって、これらTリンパ球特異的遺伝子の機能解析を進めている。また、マウス胎仔胸腺器官をリアルタイムで観察する技術を開発することで、胸腺からのTリンパ球移出を制御する分子機構を解析した。その結果、新生仔胸腺にて成熟したTリンパ球が胸腺外へと移出するためにCCR7リガンドケモカインが主要な役割を果たすことを明らかにした。また、CCR7リガンドは髄質の血管内皮や血管周囲間充織に成熟Tリンパ球を誘引することで胸腺移出に関与する可能性が示唆された。加えて、CCR7に依存しない成熟Tリンパ球の胸腺外移出機構の存在も示された。
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