本研究では、時計遺伝子を基盤にした細胞動態の日周リズムの成因解明と診断法を開発することを目的とし、以下の実験を行った。腫瘍細胞および正常骨髄細胞を対象として細胞動態(DNA合成能、標的酵素、レセプター)の日周リズムの成因を時計遺伝子、周期的に変動する遺伝子群やステロイドの日周リズムの側面から検討し、生体リズムマーカーとしての可能性を探索した。自由摂食摂水・明暗周期(明期:0700-1900)条件下で飼育した腫瘍細胞(Colon26、Sarcoma180、B16melanoma)移植マウスを対象に0900、1300、1700、2100、0100、0500の6時点に組織および血液を採取し、時計遺伝子など周期的に変動する遺伝子を測定した。また同じ6時点において生理的パラメーターを測定した。腫瘍細胞および正常細胞におけるインターフェロンレセプター遺伝子の発現の日周リズムは時計遺伝子およびコルチコステロンの日周リズムと逆相関関係を示していたことから、時計遺伝子、グルココルチコイドにより直接的あるいは間接的に抑制されているものと思われる。またDPD発現の日周リズムの成因として時計遺伝子やグルココルチコイドのリズムが関与していることが明らかとなり、ルシフェラーゼアッセイの結果とも一致した。グルココルチコイドはTopoIおよびcaspase-3に影響し、塩酸イリノテカンの抗腫瘍効果を増強することを明らかにした。またグルココルチコイドレセプターノックアウト細胞の結果とも一致した。以上の研究をとおして、時計遺伝子やステロイドなどの生体リズムマーカーのモニタリングを基盤とした最適投薬タイミングの設計が可能となり、薬物治療の個別化に貢献できると考えられる。今回の報告ではインターフェロンのレセプター、5-フルオロウラシルの代謝酵素、塩酸イリノテカンの標的酵素などについて紹介したが、その他の作用機序をもつ薬物に関しても同様の所見が認められている。今後、生体内環境を操作することにより本研究結果の妥当性を評価していく予定である。
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