研究概要 |
平成15年度は、以下の諸点を明らかにした: (1)ガングリオシトGM3の生物機能発現機構の解析:ガングリオシドは細胞膜においてダイナミックな機能性ミクロドメインを形成し、細胞増殖・分化、細胞相互認識に重要な機能を発揮していると言われる。ガングリオシド欠損マウス肺癌3LL細胞株にGM3及びGD3合成酵素遺伝子を導入し、ガングリオシドGM3発現性の安定変異株を樹立したところ、ガングリオシドGM3が集ぞくした直径50-100nmのGM3ミクロドメインが細胞内に形成されることが認められた。このミクロドメインは細胞表面へ移動し、さらに細胞外へ粒子状態で放出される現象が、免疫蛍光染色法、共焦点レーザー顕微鏡下並びに電子顕微鏡的に観察された。これを「ガングリオソームgangliosomes」と名付け、ガングリオシドの機能発現機構の一つとして提唱した。 (2)ガングリオシドGM3合成酵素SAT-Iの遺伝子ノックアウトマウス及びノックアウトES細胞の樹立とその病態生理学的解析:SAT-I遺伝子欠損マウスの作成を進め、ヘテロ型マウスのペアリングからホモマウスの作成に成功した。ホモマウスの予備的検索ではあるが、病理学的にはランゲルハンス島の減少が疑われ、一方、耐糖能の鈍化、インスリン感受性の増加などが認められた。病理的な精査を進めると共に相互関係などを明らかにしたい。また、SAT-I遺伝子のdouble allele欠損のES細胞を作成し、その性格付けを進めているが、形態や増殖能には変化は認められなかった。 (3)ヒト肺がん細胞の抗癌剤抵抗性とガングリオシドGM3合成酵素SAT-I遺伝子発現レベル:8株のヒト肺がん細胞株について、SAT-1酵素mRNAの発現量とAdriamycin, Cisplatin, Etoposideなどの抗癌剤に対する抵抗性との相関を検索したところ、SAT-1 mRNAの発現レベルが高い細胞ほど抗癌剤に対する抵抗性が高いこと、薬剤排出タンパク遺伝子の発現レベルとは相関しないこと等が判明したが、さらに細胞株数を増やし、且つ癌患者から採取した癌細胞について精査する必要がある。
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