がんの血行性転移に関与する細胞接着分子の発現制御遺伝子の研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14030092
• 研究機関: 愛知県がんセンター
• 研究代表者: 神奈木 玲児 愛知県がんセンター, 分子病態学部, 部長 (80161389)
• 研究分担者: 田口 修 愛知県がんセンター, 分子病態学部, 室長 (00142167)
• キーワード: 血行性転移 / セレクチン / CD44 / スルホトランスフェラーゼ / 硫酸化糖鎖 / ムチン / 大腸癌

研究概要

がんの血行性転移では、細胞接着分子セレクチンとその糖鎖リガンドを介するがん細胞と血管内皮の接着が重要であると我々は以前から提唱している。本研究は、この細胞接着分子の発現にかかわる遺伝子を包括的に検出して、転移の予測診断を可能にする事を目的とする。この目的のため、今年度の検索を合わせてこれまで既に60種以上の遺伝子群の発現を検索した。我々は以前硫酸基による糖鎖修飾の変化が癌細胞におけるセレクチンの糖鎖リガンドの異常な発現亢進と深く関係する事を見出した(Cancer Res.,60:1410,2000)ので、本年度はとくに糖鎖硫酸化にかかわる遺伝子群をヒト大腸癌症例および培養大腸癌細胞において検索した。その結果、これまでヒトにおいて存在の知られているGlcNAcβ:6-スルホトランスフェラーゼの五種のアイソザイムのうち、大腸においてはI-GlcNAc6STが主要アイソザイムであることが判明した。このアイソザイム遺伝子の転写は大腸癌において大腸非癌上皮細胞に比べ有意に低下していた。一方、少数派のアイソザイムのうちHEC-GlcNAc6STのmRNAは、逆に大腸癌において有意に増加していた。このことから、もしI-GlcNAc6STが合成できず、HEC-GlcNAc6STによって合成される硫酸化糖鎖があれば、そのような糖鎖はがんの診断に役立つ可能性があると考えられた。両酵素遺伝子をそれぞれ導入した細胞株を作成し、産生酵素の基質特異性を検索したところ、ムチン型コア糖鎖のうち3型コアをもつ基質に対して、HEC-GlcNAc6STは硫酸化能を持ち、I-GlcNAc6STなど他の大腸に存在するGlcNAcβ:6-スルホトランスフェラーゼには硫酸化能がないことが判明した。このことから、HEC-GlcNAc6STは、転写産物みならず、産生糖鎖もまた大腸癌の良いマーカーになる可能性が示唆された。また、HEC-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞はL-セレクチンに対する接着能を示し、I-GlcNAc6ST遺伝子導入細胞にはL-セレクチンに対する接着能が認められなかった。このことは、HEC-GlcNAc6ST発現大腸癌ではE-セレクチンのみならずL-セレクチンへの接着能が亢進していることを示し、このことが血行性転移に影響をおよぼすと考えられる。HEC-GlcNAc6ST発現大腸癌は右半結腸由来のがんに高頻度に認められることも明らかになった。さらにGlcNAcβ:6-スルホトランスフェラーゼの産物糖鎖は、セレクチンと同じくがんの転移に深く関係する細胞接着分子CD44の接着能に対しても亢進作用を及ぼすことが判明した。今後この糖鎖修飾にかかわる遺伝子とその性質をさらに深く研究する必要があると考えられた。

研究成果

• [文献書誌] Tei, K., Taguchi, O., Kannagi, R.et al.: "Roles of cell adhesion molecules in tumor angiogenesis induced by co-transplantation of cancer and endothelial cells to nude rats"Cancer Res.. 62. 6289-6296 (2002)
• [文献書誌] Schakel, K., Kannagi, R.et al.: "6-Sulfo LacNAc, a novel carbohydrate modification of PSGL-1,defines an inflammatory type of human dendritic cells"Immunity. 17. 289-301 (2002)
• [文献書誌] Sawada, M., Kannagi, R.et al.: "Reduced sialidase expression in highly metastatic variants of mouse colon adenocarcinoma 26 and retardation of their metastatic ability by sialidase overexpression"Int. J. Cancer. 97. 180-185 (2002)
• [文献書誌] Uchimura, K., Kannagi, R.et al.: "Specificities of N-acetylglucosamine-6-O-Sulfotransferases in relation to L-selectin ligand synthesis and tumor-associated enzyme expression"J. Biol. Chem.. 277. 3979-3984 (2002)
• [文献書誌] Kanamori, A., Kannagi, R.et al.: "Distinct sulfation requirements of selectins disclosed using cells which support rolling mediated by all three selectins under shear flow"J. Biol. Chem.. 277. 32578-32586 (2002)
• [文献書誌] Hamada, T., Kannagi, R.et al.: "NMR analysis of novel ganglioside GM4 analogues containing de-N-acetyl and lactamized sialic acid : probes for searching new ligand structure for human L-selectin"Magn. Reson. Chem.. 40. 517-523 (2002)
• [文献書誌] Kannagi, R.et al.: "Leukocyte Typing VII"Oxford University Press. 39-41 (2002)