我々は、H. pyloriの病原因子の一つである細胞空胞化毒素関連蛋白(CagA)のヒト胃粘膜上皮細胞に及ぼす影響を検討した。cagA遺伝子をヒト胃粘膜上皮細胞に遺伝子導入し、CagAのチロシンリン酸化、CagAとsrc homology 2-domain containing protein tyrosine phosphatase(SHP-2)との結合を解析した。また、胃癌死亡率の異なる福井県と沖縄県の臨床分離株を用いcagA遺伝子の多型性を解析した。AGS細胞内に遺伝子導入されたcagA遺伝子は細胞内で発現され、発現されたCagAは細胞内でチロシンリン酸化され、さらに、SHP-2と結合することが認められた。臨床分離株のcagA遺伝子の塩基配列を検討したところ、CagAのチロシンリン酸化部位周囲に多型性を認め、日本を中心とする東アジア株と欧米株に違いが認められた。東アジア型CagAと欧米型CagAのSHP-2との結合を、in vitroの感染実験で検討したところ、東アジア型のCagAを有する株の感染における上皮細胞内でのCagAのSHP-2との結合が、欧米型のCagAを有する株の感染におけるCagAのSHP-2との結合に比べ強いことが認められた。臨床分離株のcagA遺伝子解析において、福井株では慢性胃炎及び胃癌株ともに全て東アジア型のCagAを有していることが認められたが、沖縄の慢性胃炎株では15%はCagA陰性株で、15%は欧米型CagAを有し、東アジア型のCagAを有する株は70%であった。また、東アジア型のCagAを有する株に感染したものは欧米型のCagAを有する株に感染したものより、萎縮の程度が有意に高度であった。したがって、SHP-2と強い結合を示す東アジア型のCagAを有するH. pylori感染は、萎縮性胃炎・胃癌の発症の危険因子であると考えられた。
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