EGFファミリーの細胞増殖因子は、細胞の増殖と分化誘導に携わる基本的増殖因子として、広範な組織の形成と再生過程に関わっている。このファミリーに関するこれまでの研究の多くは受容体側に起こる反応を解析したもので、増殖シグナルを送る側の調節機構を研究したものは極めて限られている。我々は、EGFファミリーの一員であるHB-EGFの作用機構について詳しく解析してきた。その結果、HB-EGFでは、膜型と分泌型では異なった作用を持ち、膜型から分泌型への転換はこの分子の生理的役割に極めて重要な意味を持つことを明らかにした。また、遺伝子ターゲッティング法によって作製したHB-EGF遺伝子欠損マウスやHB-EGF切断に異常を持つマウスの解析から、膜型から分泌型への転換機構の乱れが細胞の過増殖を引き起こし、致死の原因となることを明らかにした。続いて膜型から分泌型への転換に関わるシグナルについて解析し、LPAなどのGPCRリガンドや種々のストレス刺激がこの過程を促進することを明らかにした。癌細胞の増殖とHB-EGFの関わりについて調べ、1)卵巣癌ではEGFファミリー増殖因子の中でもとりわけHB-EGFの発現が亢進していること、2)卵巣癌細胞では膜型HB-EGF切断を介したLPAによるEGFRの活性化が恒常的に起こっていること、3)卵巣癌細胞の腫瘍形成にHB-EGFが必須であること、4)HB-EGFの細胞増殖作用を抑制するジフテリア毒素変異タンパク質CRM197が腫瘍形成を強く抑制すること、を見いだし、HB-EGFが卵巣癌治療のターゲットとして有望であることを明らかにした。
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