ショウジョウバエの神経幹細胞は、娘細胞の運命と大きさの異なる典型的な非対称分裂を行い、転写因子ProsperoやNotchシグナルの制御因子Numbを姉妹細胞の神経前駆細胞に不等分配する。これらの運命決定因子が正しく一方の娘細胞に不等分配されるために、分裂軸と運命決定因子の局在の方向が一致するように調節されている。本研究では、ショウジョウバエ神経幹細胞を実験系として、このような非対称分裂のメカニズムとその背後にある細胞極性の分子実体を明らかにすることを目標としている。 昨年までに、突然変異の系統的な分離とその分子遺伝学的な解析から、神経幹細胞の娘細胞の大きさの違いが、細胞外シグナルに依存しない3量体G蛋白質の働きによって生じることを明らかにしてきた。他方、神経幹細胞では、リン酸化シグナルを伝達するaPKC-Par3複合体とGタンパクシグナルを担うGαi-Pins複合体という二つのシグナル伝達系がapical側に局在し、細胞極性を制御することが知られ、娘細胞のサイズの非対称についても、両者が平行して機能することが判明している。この2つのシグナルの役割を詳細に解析した結果、aPKC-Par3シグナル伝達系は主に運命決定因子の局在に、Gαi-Pinsは分裂軸の方位の決定に関わることが明らかになり、2つのシグナル系は互いに協調しながら機能を分担していることが判明した。 Gαi-Pins複合体が分裂軸の方位の決定を担うことから、Pinsと相互作用する因子が分裂軸の制御を行うと想定し、Pins結合因子を探索した結果、あるpins結合因子の突然変異体で分裂軸の方位の異常が観察された。Gαi-Pins複合体の下流で、この因子が星状体微小管と相互作用することにより分裂軸の方向を制御していると考えられる。
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