研究概要 |
胚性幹細胞(ES細胞)は、白血病阻害因子(LIF)の存在下においては、未分化状態を維持して増殖する。この時のES細胞の憎殖速度は他の細胞に比べて非常に速く、そのdoubling timeは約8時間である。一方、培地からLIFを除去すると、ES細胞の増殖速度が低下し、それとともに分化が誘導される。LIFの存在、非存在下でのES細胞の細胞周期を調べたところ、LIF存在下では全周期の30%程度の長さであったG1期が、LIF非存在下では50%ぐらいにまで伸びていた。このことから、ES細胞においては、LIFのシグナル伝達系の下流にES細胞の細胞周期を制御する因子が存在する可能性が考えられた。そこで、本研究ではそのような細胞周期制御因子の同定を試みた。まずマイクロアレイやRT-PCR法を用いることによって、LIF除去の際にその発現量が変動する細胞周期関連分子を探索した。その結果、LIF除去によって発現量が減少するものとして、cyclin E1やcyclin D1,Chk1を見い出した。一方、逆に発現レベルが上昇するものとしては、Cip1,14-3-3σ,cyclin G1,cyclin G2を見い出した。さらにCip1に関しては、強制発現させることによってLIF存在下でもES細胞のG1期を伸ばすごとが可能であることも見い出した。このことはLIFがCip1の発現を抑制することによってES細胞のG1期を短くしている可能性を示唆する。また興味深いことにLIF除去によって発現が上昇する4つの分子のうち、3つの分子がp53の標的分子である。そのためLIFがp53の発現量を制御してこれらの分子の発現を制御している可能性が考えられたが、LIF除去に伴うp53 mRNAの増加は観察されなかった。このことから、LIFが転写ではなく、翻訳後修飾を誘導することによってp53タンパク質の活性制御を行っている可能性が考えられた。
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