basic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子の機能抑制因子であるId2の個体レベルでの細胞の増殖と分化の制御における機能を明らかにすることが本研究の目的である。得られた研究成果は以下の通りである。 (1)乳腺上皮細胞の増殖制御に関する解析 Id2欠損マウスと転写因子であるC/EBPβの欠損マウスは共に妊娠乳腺上皮細胞の増殖障害を示す。Id2のプロモーター解析などにより、Id2がC/EBPβの直接の標的遺伝子であることを明らかにした。C/EBPβ欠損マウスの妊娠乳腺においては対照マウスにみられるId2の発現誘導が認められないことも確認した。一方、Id2欠損マウスとMMTV-サイクリンD1トランスジェニックマウス(D1Tg)との交配実験の結果から、D1Tgにみられる乳腺腫瘍や過形成はId2の欠損により軽減することを見いだしていたが、Id2自体がD1TgのプロモーターであるMMTV-LTRの転写活性に対して促進的に働いている可能性を示唆する結果を得ており、現在も解析を継続している。 (4)Id2のタンパク質の細胞内局在について検討し、Id2のHLH領域とC末端領域に、それぞれ核移行シグナルとCRM1依存性の核排出シグナルが存在することが判明した。 (3)癌抑制因子とId2の機能関係に関する解析 Rb(癌抑制因子であるRetinoblastoma遺伝子)欠損マウスは胎生致死という表現型はId2をさらに欠損させることで回復すると報告されているが、複合欠損マウスを検討したところ、表現型の回復は見られなかった。 (3)Id2をbaitとした酵母two-hybridスクリーニングで約100万クローンをスクリーニングし、84種類の候補因子を単離した。Id2とのタンパク質間相互作用の再確認により27種類の候補に絞り込み、現在も解析中である。
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