分化抑制因子Id2は、種々の細胞分化過程で重要な役割を果たすbasic helix-loop-helix(bHLH)型転写因子の機能阻害因子の一つであり、細胞分化を抑制して未分化状態を維持する活性を持つ。また、細胞増殖を促進する、あるいは細胞死を誘導する活性も有している。Id2は分化の中間段階にある細胞が増殖のフェーズから離脱して最終分化に向かう変換点を制御している可能性が考えられているが、実際の機能については不明な点が多い。本研究の目的は、細胞の増殖と分化の制御が個体レベルでどのように制御されているのかをId2をツールとして明らかにすることにある。本年度の成果は以下の通りである。 (1)Id2欠損マウス嗅球の狭小化について生後8日目の傍側脳室帯由来の神経幹細胞の培養を行い、CDKインヒビターの一つであるp21の遺伝子発現がId2欠損マウスにおいて対照マウスに比べ亢進していることを見いだした。 (2)血清刺激によるId2遺伝子発現の誘導をモニターできるアッセイ系を確立し、Id2の転写開始部位から上流4.5kbに位置する応答領域を同定した。現在、どのような転写因子が関与しているかを検討している。 (3)Id2欠損マウスの脾臓CD8陽性T細胞は対照マウスに比べ1/3程度しか存在しないが、これがCDKインヒビターであるp21とp27のタンパク質レベルでの発現亢進によることを明らかにした。 (4)成体マウス脳におけるId遺伝子ファミリーの詳細な発現分布を明らかにした。
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