研究概要 |
エイズの原因であるヒト免疫不全ウイルス1型(HIY-1)のアクセサリー蛋白Vprは宿主細胞周期のG2期からM期への進行を抑制する(G2/M arrest)。このG2チェックポイント擬似誘導は、HIV-1の複製やエイズの発症に深く関与する可能性が示されているが、その分子機構には未だに不明の点が多い。一方、分裂酵母モデル系を用いた研究から、VprによるG2/M arrestにはweel、rad24等の宿主遺伝子が必須であることが報告されている(Masuda et al.,2000)。分裂酵母のRad24はヒトの14-3-3ファミリー蛋白のホモログである。昨年度はヒト14-3-3βがrad24遺伝子の欠損を補完し、Vpr感受性を賦与することを示した。本年度は、種々の他のヒト14-3-3についても同様の検討を行った。その結果、14-3-3ζもrad24欠損を補完し分裂酵母にVpr感受性を賦与することが見出された。また、14-3-3εも弱い補完作用を示したが、他の14-3-3蛋白(γ、η、θ、σ)では認められなかった。各蛋白のアミノ酸配列に基づき作成した進化系統樹では、14-3-3βとζはお互いに近縁であり、Rad24と最も近縁なのは14-3-3εであった。以上の結果は、HIV-1 Vprがヒトの細胞においてG2チェックポイントの擬似誘導を起こす際の分子機構に14-3-3βあるいはζが関与する可能性を示唆している。この可能性についてヒト培養細胞を用いて検証するためのツールとして、今年度はVpr発現用アデノウイルスベクター(Ad-VIG)の構築も行った。このベクターは導入マーカーとして緑色蛍光蛋白も共発現するので、利便性が高い。Ad-VIGベクターを用いた実験により、Vprが霊長類以外にも、ネコ、ウシなどの動物種由来の細胞でG2/Marrestを起こすことが明らかとなった。
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