家族性乳癌の原因遺伝子BRCA1はBARD1とともにRINGヘテロダイマー型ユビキチンリガーゼを形成する。この酵素活性がBRCA1の生物学的機能、すなわちDNA修復および転写の制御にどうかかわっているかを解析した。研究者はBRCA1-BARD1によって生じるユビキチン鎖がLys-6を介したものであることを、変異型のユビキチンを用いたin vitroおよびin vivoの実験系で、さらに野生型のユビキチン鎖の結合部分を質量分析計(LC/MS/MS)で解析することによって証明した。興味あることにプロテアソーム依存的蛋白質分解のシグナルであるLys-48結合型ユビキチン鎖とは異なり、BRCA1-BARD1によって生成されるLys-6結合型ユビキチン鎖はin vitroにおいて26Sプロテアソームによって脱ユビキチン化された。したがって、BRCA1-BARD1ユビキチンリガーゼはタンパク質分解を誘導する酵素ではないことか判明した。研究者はさらに質量分析計を用いたスクリーニングによりBRCA1-BARD1の2つの基質を同定した。いずれもin vivoおよびin vitroにてBRCA1-BARD1にてユビキチン化され、安定化した。このうちの1つは中心体複製を制御する蛋白質でBRCA1の欠損による中心体過剰複製、染色体不安定性はこの系の機能不全によるものと考えられる。もう一つの基質はRNAポリメラーゼIIのサブユニットで現在、ユビキチン化によって転写活性が阻害する可能性が示唆される結果が得られており、BRCA1によるtranscription-coupled DNA repairはこの系を介していること考えられる。
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