研究課題
脊椎動物の終脳先端部に形成される嗅球は、嗅覚の一次中枢として機能する脳の重要な領域である。この嗅球の発生機構に関する研究は非常に少なく、嗅球発生の分子機構は未だ不明の点が多い。興味深いことに、転写因子であるPax6の機能欠損マウス及びラット胚では、嗅球が終脳の先端ではなく、側面部に存在する。そこでこのPax6変異胚における嗅球の位置異常のメカニズムを探ることで、嗅球発生におけるPax6遺伝子の役割を解明することが本研究の目的である。これまでの研究によりPax6変異胚では嗅球神経前駆細胞の移動様式が異常であり、これが嗅球の位置異常を引き起こしていることを見い出している。本年度(平成14年度)は特に分子実験発生学的手法を用いて、Pax6変異胚における嗅球神経前駆細胞移動の異常の原因について解析を行った。細胞移動異常における細胞自律性の解析Pax6変異胚における嗅球神経前駆細胞の移動異常が移動する細胞の自律的な問題によるものか、周囲の組織環境の異常によるものかを、細胞移植によって検討した。その結果、Pax6変異胚の細胞移動の異常は、移動する細胞の周囲の環境の異常に起因することが明らかとなった。嗅球神経前駆細胞の移動における嗅神経投射の関与の解析脳器官培養系を用いた嗅上皮除去の実験より、野生型では嗅神経の投射が起こらなくても嗅球は正常な位置に形成されることが明らかとなった。外来性Pax6遺伝子の導入による細胞移動異常の回復の検討外来性のPax6遺伝子の導入により、変異胚における嗅球の位置異常が救済されることが明らかとなった。従って、Pax6遺伝子が終脳組織において機能することが嗅球の位置決定に必須であることが判った。
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