研究概要 |
胚発生の開始には,卵形成の過程で合成され卵内に貯蔵されている母性因子が重要である。これら母性因子の多くは,mRNAとして卵内の特定の領域に局在化し,局在化した領域でのみ時期特異的に翻訳され機能する。このような母性RNAの時間的・空間的制御には,母性RNAとRNP複合体を形成する蛋白質が重要である。 私たちは,ショウジョウバエ卵形成過程において,Me31Bが母性RNAの輸送と翻訳とを連携させているRNP複合体の構成蛋白質であることを明らかにしてきた。本研究では,Me31B複合体の新規構成蛋白質として同定したCG10686蛋白質について,当該遺伝子の突然変異体の単離を行った。まず,CG10686遺伝子の3'側約7kbに位置するP因子系統出発点として,CG10686遺伝子領域に新たにP因子が挿入した系統をスクリーニングした。その結果,CG10686遺伝子の3'非翻訳領域にP因子が挿入した系統(#96)を単離した。#96ホモ個体では,CG10686蛋白質の発現が野生型の30%程度まで低下しており,#96ホモ雌成虫由来の胚は母性効果致死の表現型を示した。すなわちCG10686蛋白質は卵形成過程において必須の機能を持つことが明らかとなった。しかし,母性RNAの輸送・局在化あるいは翻訳に対する影響があるのかについては明確にできなかった。そこで次にCG10686遺伝子のnull突然変異体を単離する目的で,CG10686遺伝子の5'側上流にP因子が挿入した系統から,P因子が欠落した系統を作製し,スクリーニングした。その結果,CG10686遺伝子領域の欠失変異体を4系統単離した。これら4系統はすべて,ごくわずかな数のエスケーパを生じるものの劣勢致死の表現型を示した。すなわちCG10686は卵形成過程ばかりでなく,体細胞系列の発生・分化においても必須の機能を持っていることが明らかとなった。
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