神経細胞の樹状突起と軸索という2つの突起のアイデンティティーが何によって決まり、また、なぜ軸索は一本に制限されているのかはよくわかっていない。この問題に迫る目的で我々は、樹状突起付きの神経細胞を培養し樹状突起が軸索に変換する現象を観察してきた。今回は、この突起変換における細胞骨格の再編成について、また、アクチン繊維や微小管の軸索再生における役割を調べた。(1)樹状突起には両極性の微小管が混在するのに対し、軸索にはプラス端を遠位に向けた(Plus-end distal)微小管のみが存在する。われわれの培養系において培養して間もない神経細胞の樹状突起内には、極性の異なる微小管が混在していることが確認できた。24時間培養すると、元の樹状突起内でPlus-end distalの微小管の比率が90%以上になっていた。培養三日間後には、全長にわたって極性の揃ったplus-end distalの微小管束が形成されていた。このことから、樹状突起が軸索に変換するとき微小管が再編成されることがわかった。(2)軸索の伸長にはアクチン繊維と微小管が重要な働きをしている。サイトカラシンEによってアクチン繊維を壊して培養すると、樹状突起から軸索が再生する比率が高くなった。もともと長い微小管束を多く持つ樹状突起が軸索になり易く、アクチン繊維によるメカニズムが働くとそれが抑制されると考えられる。(3)次に、元の樹状突起がもともと持っている微小管をノコダゾル短時問処理によって壊して培養した。約半数の細胞で、軸索が2本以上発生した。以上のことから、アクチンは局所的に軸索形成を制御して短い距離の範囲内で軸索を一本に制限すること、また、細胞体に近い部分の微小管束が、細胞全体の極性を作ることが示唆された。
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