昨年度我々はアフリカツメガエル及びマウスの系を使って、新規核内因子Sall1を単離し、これが腎臓形成の極めて初期に必須であることをノックアウトマウス作成により示した。本研究では、Sall1を軸にしながら腎臓発生の分子機構を探り、断片的にしか理解されていない遺伝子群の機能を結びつけ、腎臓発生機構を統一的に説明できるようになることを目指している。 ショウジョウバエにおいてはSall1のホモログspaltはdppやWntの下流にあることが示されている。そこで既知の様々な経路とSall1との関係を探ったところ、Sall1存在下にWntの刺激を加えるとWnt応答性ルシフェラーゼの反応が有意に上昇した。さらにSall1のC端がβカテニンに結合することが判明した。しかし核内分布の詳細な検討から、Sall1の大部分はheterochromatin領域に存在することが明らかとなり、βカテニンとSall1が結合してWntシグナルを増強するという単純な機構ではないことが示唆された。Sall1がheterochromatinに存在することによってchoromatin構造がゆるむのか、それがなぜWnt特異的な活性化につながるのかが今後の検討課題である。 ヒトSall1の変異はTownes Brocks症候群という指、耳、肛門、腎臓、心臓の異常を呈するが、マウスSall1の欠失マウスには腎臓以外の症状はない。この理由として、マウスの場合他のSallファミリーの遺伝子によって代償されている可能性がある。そこでSall2のノックアウトマウスを作成したが、指、耳、肛門、腎臓、心臓に異常はなく、また発生期の腎臓においても組織的遺伝子的に異常は認められなかった。さらにSall2とSall1の2重欠失マウスを作成したが、Sall1欠失による腎臓欠損のみで、その他の異常は出現しなかった。さらに複合ヘテロ体での腎機能にも異常を認めなかった。よってSall2は発生に必須ではなく、Townes Brocks症候群の原因ともなっていないことが示唆された。
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