研究概要 |
哺乳類の発生システムを理解するために,原腸陥入・中胚葉形成期に働く転写因子の下流に存在する発生制御遺伝子を,改良遺伝子トラップ法によって単離して,機能を解析することが本研究の目的である。本研究ではアデノウイルスベクターを用いて転写因子をES細胞で発現させることで,発生制御転写因子によって発現調節される遺伝子をトラップすることを試みた。 遺伝子トラップ法により得られたトラップクローンのうち,発生分化において重要な役割を持つ転写因子Pax1,Brachyury, HNF-3βにより発現調節される遺伝子をトラップしたクローンを選別するため,アデノウイルスを用いて,転写因子をトラップクローンに強制発現させる実験系を構築した。遺伝子トラップベクターを用いて得られた366クローンについて,転写因子の発現前と後での発現量変化を調べた結果,X-gal染色による1次スクリーニングで43個のトラップクローンが,いずれかの転写因子の作用により発現量の変化が見られた。CPRG染色による2次スクリーニングでも発現量の変化が認められた11クローンについて,5'-RACEによりトラップされた遺伝子の一部の塩基配列を決定した。NCBIマウスゲノムデータベースを用いて遺伝子を同定したところ,ほとんどが発生と関連があると考えられる遺伝子がトラップされていた。発現変化をノーザンブロットで調べた結果,そのうち4クローンが選別に用いた転写因子に反応した。そこで,これら4クローンよりキメラマウスの作製を行い,現在は生殖系列への伝達の確認を行っている。今後,トラップされた遺伝子の発現パターンを同定し,各転写因子の発現パターンとの比較をして,転写因子を用いたトラップ系の有効性を検証する。さらに,ホモ変異マウスの表現型を解析して,今回得られた遺伝子群の発生過程での役割を解析する。
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