脊椎動物の複雑な頭部顔面形成には、神経堤細胞による咽頭領域の前後軸にそったパターニングが必須であり、そのパターニングにはHoxコードが中心的な役割を果たしている。一方、脊椎動物ともっとも近縁な無脊椎動物であるホヤやナメクジウオはHox遺伝子が神経管でのみ前後軸に沿ったパターニングを行っており、脊椎動物の神経堤で新しいHoxコードが進化したと考えられる。本研究では、この新しいHoxコードの進化がどのような分子機構で生じたかを明らかにするために、ナメクジウオのHox1遺伝子の転写制御に関わると考えられるシス領域を脊椎動物に導入して、活性を調べた。その結果、レチノイン酸レセプターの結合コンセンサス配列が、脊椎動物の神経管および神経堤での発現に必要十分であることを明らかにした。この結果は、無脊椎動物では神経管での発現に関わっていたレチノイン酸による転写制御機構が神経堤でも機能できるようになったことが、脊椎動物の複雑な頭部顔面形成に必要な神経堤でのHoxコードの進化に結びついたことを示している。 また、ナメクジウオのHox2の転写制御機構の解析も行った。ナメクジウオのHox2は神経管での発現を失っており、pre-oral pitでの発現を二次的に獲得した結果、偽遺伝子となることを免れたと考えられる。このpre-oral pitでの発現に、Etsの結合コンセンサス配列が二つ必要であることがわかった。また、そのpre-oral pitでの発現の特異性には、その周辺の配列も必要になっており、別の因子との共同でpre-oral pitでの特異的な発現を制御していると考えられた。
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