我々は発生過程を含めた生体内におけるSIP1の機能を知る目的で、SIP1ホモ欠失変異マウスを作製しその解析を行ってきた。SIP1は胎生7.5日からその頭部神経外胚葉を含んだ広い範囲で発現が観察され始める。胎生8.5日では神経堤細胞を含む菱脳や頭部神経外胚葉および間充織細胞、さらに神経管において観察される。SIP1ホモ欠失変異胚は1)turningを起こさない、2)頭部を含めた全領域において神経管が閉じない、3)7〜8体節以降の体節が生じず体幹部の成長がない、という形態的特徴を示し、胎生9.5〜10.5日において致死であった。さらに胎生8.5日胚において種々のマーカー遺伝子を用いてその発現を調べたところ、以下の結果を得た。1)初期神経組織分化マーカーであるSox2の神経板における発現が低下していた。2)神経板や神経管の神経上皮細胞において消失すべきE-cadherinの発現がそれらの組織で観察された。3)神経堤細胞で発現するSox10の発現を調べたところ、頭部での発現は維持されていたが、遊走する神経堤細胞の減少が示唆された。一方、頚部でのSox10の発現は全く消失していた。4)同様に頚部におけるMsx1の発現も消失していた。また最近報告されたヒトSIP1ハプロ不全欠損症の患者においても、頸部神経堤細胞に由来する腸管神経節の欠損を呈するHirschprung diseaseの患者より発見されており、これらの結果はSIP1が初期胚における神経組織形成や神経堤細胞の正常な発生に必須であることを示している。
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