研究概要 |
生殖腺は生殖細胞と体細胞から構成される。生殖細胞の分化、ならびに性分化には、生殖細胞を支える体細胞の存在が不可欠である。生殖腺の原基は中腎の体腔上皮が肥厚しすることで形成される。それが未分化性腺になり、性分化に伴って精巣と卵巣になる。哺乳類と鳥類の生殖腺の形態形成には多くの共通なメカニズムがある。しかしながら、鳥類生殖腺の特殊性としては、右の卵巣は性分化に伴って退縮するという古くから知られている生物学的事実がある。この問題を分子レベルで解明した。生体内において、レチノイン酸(RA)はレチナール脱水素酵素(Radh2)により合成され、チトクロームP-450ファミリーに属するCrp26A1により分解されることで,そのレベルが維持されている。5日胚未分化性腺の皮質と髄質におけるRadh2とCrp26A1の発現を調べたところ、皮質では雌雄差は認められなかったが、Radh2は右側に、Crp26A1は左側に発現していた。髄質では左右差も雌雄差も認められなかった。生殖腺の形成に不可欠な転写因子Ad4BP/SF-1の発現を調べると、皮質ではRAの存在量と逆相関して、左側に発現していた。RAシグナルとの関係を調べるために、RAビーズを左側の未分化性腺に移植するとAd4BP/SF-1発現が阻害された。逆に、RAアンタゴニストビーズを右側の未分化性腺に移植するとAd4BP/SF-1の皮質での発現が誘導され、更に興味深いことに卵巣の萎縮がレスキューされた。6日胚の性腺の髄質では雌に特異的にRaldh2, RARa, RXRaが発現し、雌特異的にRAシグナルが働くことが予想される。髄質は、エストロゲン合成酵素であるAromataseが雌特異的に発現し、空洞化を誘導することがinhibitorを用いた実験が報告されている。RAアンタゴニストビーズを雌の右側の未分化性腺に移植することでAromataseが阻害され、卵巣の萎縮がまぬがれた。またRAビーズを左の雌の未分化性腺に移植するとAromataseが誘導され、萎縮が促進された。逆に雄の未分化性腺にRAビーズを移植したが、Aromataseが誘導されることはなく、髄質が萎縮することもなかった。髄質に対するRAシグナルは、雌特異的にAromataseを誘導することはできるが、雄では更に他の因子を必要とすることが推測される。
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