NAT1は翻訳開始因子eIF4Gに類似した蛋白質で、すべての哺乳類細胞において普遍的に存在している。NAT1は特定mRNAのIRES(internal ribosome entry site)に結合し、その翻訳調節を行うと考えられている。我々は最近、NAT1遺伝子ホモ変異マウスは原腸形成期に致死となること、またホモ変異ES細胞は未分化状態では正常に増殖するが、分化能力が著しく障害されていることを明らかにした。これはNAT1が発生や分化に必須である因子の翻訳調節に携わっていることを示唆する。またショウジョウバエにはNAT1と約40%の相同性を有する遺伝子が存在しており、予備的な実験では、この相同遺伝子も初期胚発生に必須であることが示唆されている。本年度は次の2つの研究を行った。 1.NAT1が翻訳調節する標的mRNAの同定。NAT1をTandem Affinity Purification法により精製した。銀染色により単一バンドが観察できるくらいの純度にまで精製することに成功した。この時、共精製されているRNAをDNAマイクロアレーにより解析しており、特異的に結合するRNAの候補がいくつか見つかっている。 2.ショウジョウバエ相同遺伝子(dNAT1)の機能解析。 dNAT1の変異体をP因子挿入と、その再転移に伴うゲノム欠失によって作製した。dNAT1変異体は蛹形成後、劣性致死となることが分かった。dNAT1 cDNAを複眼成虫原基において強制発現させた場合、個眼の細胞死を示唆する表現型が観察された。また、表皮領域にdNAT1を発現させた場合には剛毛が減少した。一方、dNAT1の二本鎖RNAを同様に発現させた場合には、細胞死の抑制を示唆する結果が得られた。これらの結果から、dNAT1は生体における細胞死シグナルに必須なファクターである可能性が示唆された。
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